1998.09  ESSAY
誠文堂新光社 効果的なグラフィックデザイン エレメントに直接さわる、という感覚

デザインのエレメントに直接さわる、という感覚
誠文堂新光社「効果的なグラフィックデザイン」
文/杉崎真之助

数年前からデザインの作業はすべてコンピュータで行うようになりました。その頃からもう一度タイポグラフィに興味が湧いてきたのです。もともとグラフィックデザインは文字や線などの基本要素をいかに統合してゆくかが一番重要な部分です。しかし以前は、手作業で紙を切ったり線を引いたりという物理的な制約のもとで、発想のスピードに作業のスピードがついてゆかないことに、もどかしさを感じていました。コンピュータはそれを開放しました。データ化されたデザインエレメントを直接扱い純粋に形態だけを対象とし、リアルタイムに想像力とつきあう環境の中で、デザインの文字やイメージそれ自体に向き合う空間を発見したのです。もちろんデザインは伝える行為です。そのために発想からフィニッシュまでいろいろな段階を踏むのですが、その流れから離れて、ダイレクトにカタチとつきあう時間の中で新しいスタイルの発見があります。


モリサワの書体カタログ


こうしたいわば遊びの中から生まれてきた試作が実際に活かされた一つの例が、モリサワフォントカタログの仕事です。写植からデジタルフォントに移行する時代背景の中で積極的な展開をはかるモリサワは、同時に文字の文化や伝統をとても大切にする企業です。写植の時代はデザイナーの机には、書体を選ぶためのものとして必ず書体見本帳がありました。モニターをみながらリアルタイムに組版を行う現在の環境のもとで組版の知識と技術が見本帳と同時に無くなっていくことに対する問題意識を私たちは感じています。その結果、ベーシックな組版を大切にする理念とデジタルフォントの先進性のふたつのメッセージをこのカタログに求めたのです。いたずらにデジタルっぽい表現を拡大するのではなく、基本をおさえた簡潔な構造をもち、さらに、ぎりぎりまで未来性を訴求してゆく組版のサンプルをつくるということをめざしました。現在、文字は「指定」するものから「購入」するものに変化しました。しかし、このカタログには売りのコピーなどの商品カタログ的要素はありません。書体や組版に対するモリサワの理念に基づいた表現が、そのままメッセージになると考えるからです。


図 ひらがなと漢字を50音の文字組で構成したポスター「文字の都市」



図 文字を重ねると意味が隠れて形態そのものが見えてくる。「原形」


図 モリサワ フォントカタログから


図 カタログのために文字組を大量に試作した中の一部


ピクセルスケープ展


クリエイションギャラリーG8から展覧会の依頼をいただきました。通常の仕事では、条件、枠組みをしっかり設定して、その上で具体的なデザインに進みます。しかし、今回はあえて無理に自分の中で意味性やテーマを求めてゆくことを避けました。いきなり試作をどんどんつくってゆくという方法がおもしろいと考えたのです。締め切りだけが条件です。ただし、当然ながら私のデザインの特徴、クセのような部分に焦点をあてることにしました。ギャラリーから、文字や線による表現、写真や画像による表現、それらに続く3番目の新たな方向性を見せてはどうか、とお話をいただき、その言葉に乗せていただきました。そこでデジタルデータの構成単位であるピクセル(画素)の美しさを率直に表現してみようと考えました。こういった企画展の場合、その空間の位置づけ、そしてギャラリーの方の考え方を仮想の条件として、そこからどういった展示をするかを考えてゆくやり方が好きです。たくさんの試行錯誤をあえてするのですから、ギャラリーにも、事務所のスタッフにも迷惑がかかるわけです。しかしその過程で、たくさんの経験と新たなデザインの発見があります。結果的にB1ポスターサイズをタテに4連という形態の中に、コンピュータのつくったランダムな文字に虹色のピクセルが並びました。こういった言語性をもたない、今までのポスターにたいする考え方から逸脱した実験が、現在のデザインやコミュニケーションを考えるうえで、逆にある種の意味をもつかもしれません。


図 作品の部分拡大。単に高解像度を競うのではなくはなくて「ピクセル」もひとつの美しいテクスチャーだと考える

図 展覧会告知のためのポスター



図 レインボーイメージの素は単純な構造の線画データ。グラデーションの設定を変えることでいろいろな表情が生まれる。それを画像データに変換。