2009.10  LECTURE
やわらかいタイポグラフィ

亜洲大学創意設計学院 文字・図像・コミュニケ–ションデザイン国際研討会 講演(台湾)

日本語の文字組を見ると、その特徴的な質感を発見する。いうまでもなく漢文は漢字のみで表記されるので、文字列は均一な質感を持っている。しかし日本語は漢字と仮名の画数の違いによって文字組に濃淡ができる。表意文字の漢字と表音文字の仮名を組合せて表記する複雑な記述方法が、日本語の組版の印象を特徴づけている。

表音文字である仮名は、9世紀頃に誕生した。漢字で日本語の意味や音を表すという使われ方の中で、しだいにその字体を崩しながら変化していった。やわらかい形態は最初女性だけが使うものであった。正方形のグリッドを基準に規則的に表記される漢字とは違って、グリッドに縛られない自由な表記方法を発達させた。

日本語の組版では、字間を均一なグリッドに合せて組む方法とともに、仮名の字幅にあわせて字間を詰める組版が用いられる。仮名の書体はわずか50文字でできているので、仮名の書体だけを差替えることで文字組全体の印象を大きく変えることも可能である。このように、日本語の構造は日本のグラフィックデザインに大きな特徴と影響を与えている。

私は1989年にコンピュータと出会ったことで、グラフィックデザインの本質を理解することができた。デジタル技術によって物理的な制約がなくなり、グラフィックデザインは本来の実力を発揮できるようになった。製図ペンで線を引くといった原寸での身体的な経験と、コンピュータによる革命的な制作環境の変化。私はその両方を経験することができる時代に生まれたことをとても幸運に思う。

振り返ってみると、コンピュータを使いはじめてから20年の間に、膨大な数の実験作品を制作した。文字を重ね集積する作品、画像を重ねる作品、ピクセルによる表現、近年の形と構造に関する実験制作などを紹介する。

デザインの本質は、形や色による装飾や表現ではなく、感動や情報の構造を設計することであると考える。個展や実験作品から企業のブランディング、空間計画まで、分野にとらわれずに同じ考えでデザインを実践している。しかし創造の原点は理性ではなく感情である。私はさまざまなグラフィックデザインの実験を通じて、自身の心との対話を楽しんでいるのだ。


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