2012.03  INTERVIEW
Super: 006 Do You Know Me? #12 インタビュー


デザインは創るのではなく発見するもの
 
デザイナーなら誰もが知るモリサワをはじめ、ヒラギノ、タイプバンクフォントを自由に使える年間ライセンスシステム「MORISAWA PASSPORT」のロゴマークを手掛けたのが杉崎真之助氏だ。
 
――「MORISAWA PASSPORT」は、これまでの書体を販売するのではなく、「ライセンス」を売るという画期的なアイディアでした。まったく新しい商品なだけに、ロゴマークはモリサワのアイデンティティを受け継ぐべきか、離れるべきなのかという点が、大事な論点になります。ロゴマーク開発はモリサワ広報の方と一緒に二人三脚で進め、白熱した議論が繰り返されました。デザインはクライアントが望むものを創るのではなく、クライアントと共に、必要とする答えを発見することなのです。「MORISAWA PASSPORT 」という名前が決まったので、社名を受け継ぐデザイン、つまりモリサワというマザーブランドに、新しい商品ブランドを関連させる方法を選びました。具体的には、以前使われていた欧文社名ロゴをアレンジすることで『アイデンティティの進化』を実現しようとしたんです。そのヘルベチカを元にした書体を少し細くして、頭文字『P』に視覚的なアテンションを設計しました。四角形は「文字の
ドア」という意味を持たせています。
 
アタマに届ける、ココロに届ける
 
デザインを語る上で、フォントと同様に切っても切り離せないのがMacintoshの存在。杉崎氏自身もMacintosh
の登場を境にして、デザインに対する考え方が変化した。
 
―― モリサワが日本語ポストスクリプトフォントを発表したのが1989年で、その年に私もMacintoshと出会いました。初めてMacintoshに出会った時、白い背景に黒い文字が表示されたのを見て、これは拡張された「紙」であると直感したんです。デザイナーの敵ではなくて味方だと興奮しました。そして、Macintoshを手にしたことで生まれたのが「情報の設計と印象の設計」という考え方。理解や意識させるというアタマに届けるためのデザインと、感動や無意識の部分を揺さぶるというココロに届けるためのデザイン。この両方を同時に設計することが、コミュニケーションデザインなのだと。「MORISAWA PASSPORT」のように論理的に組み立てていく場合だけでなく、直感的に生まれたアイディアに対して論理的な裏付けをプラスしていく場合も同様です。正しい直感を導き出すには、まず資料を読み込み日常のアンテナの感度も高めて情報収集を行う。次に、そこまでに得た理屈をいったん全部忘れてインスピレーションのスイッチを入れる。そうして生まれた直感なら、尖っていながらも後から論理的に裏付けることができるんですよ。
 
コミュニケーションデザインの基本は文字
 
日本国内のみならず海外でも講演やワークショップを開催する杉崎氏。海外の学生と接する中で、日本の若手デザイナーや学生たちには、アイデンティティの根源でありコミュニケーションの基本でもあるタイポグラフィをもっと学んで欲しいという想いを持っている。
 
―― 欧文は、表記法がグラフィックデザインの表現そのものにつながってきます。英語の場合『シカゴ・マニュアル』という1000ページもあるルール本があります。大文字、小文字の使い方、スペースそして書体の選択といったタイポグラフィが重要になります。日本では、欧文は雰囲気で表記しがち。でも、ルールに則って表記することは多様な文化を理解しリスペクトすることになります。タイポグラフィはコミュニケーションデザインの基礎体力といえる。発想力も重要ですが、職人的な知識を身体のベースに備えておくことは必ず役に立ちます。また、ロングセラーの『グラフィックデザイン全史』は、まず先史時代から第一章が始まります。つまり、グラフィックデザインの歴史は人間が記録することをはじめた瞬間から始まっているということを表している。デザインは無から生まれるのではなく、過去を学びながら進化し続けています。大阪が豊かで多層的な街に感じるのも、過去の文化を蓄積してきたから。若いデザイナーや学生と一緒に新しい試みを積み重ねて、大阪をもっと魅力的な街にしたいですね。

 

 

(構成・文:中直照)

 

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